社会保障協定のある国と手続きガイド

日本が締結している社会保障協定の対象国23カ国の一覧、適用証明書の申請方法、年金加入期間の通算制度、脱退一時金との関係など、外国人が知っておくべき社会保障協定の全情報を網羅的に解説します。2024年最新版。
社会保障協定のある国と手続きガイド|外国人が知るべき年金・保険の二重加入防止
日本で働く外国人にとって、年金や社会保険料の「二重払い」は大きな負担です。母国と日本の両方で社会保険料を支払わなければならない状況は、家計に深刻な影響を与えます。そこで重要になるのが社会保障協定です。この協定により、保険料の二重負担を防ぎ、年金加入期間を通算できる仕組みが整えられています。
本記事では、2024年時点で日本が締結している社会保障協定の対象国一覧、具体的な手続き方法、そして外国人が知っておくべき重要な注意点を詳しく解説します。日本の年金・社会保障制度について基本を押さえた上で、この協定の活用方法を確認しましょう。
社会保障協定とは?基本の仕組みを理解する
社会保障協定とは、二国間で社会保障制度の適用を調整するための国際条約です。主に以下の2つの目的があります。
1. 保険料の二重負担防止 海外で働く場合、本来は派遣元国と派遣先国の両方の社会保障制度に加入する必要があります。社会保障協定により、どちらか一方の国の制度にのみ加入すれば済むようになります。
2. 年金加入期間の通算 各国で支払った年金保険料の加入期間を合算し、年金受給資格を得やすくする仕組みです。例えば、日本で10年、アメリカで5年働いた場合、合計15年として計算できます。
この協定がないと、海外勤務者は「保険料を二重に支払う」か「掛け捨て(年金を受け取れない)」になるリスクがあります。日本の税金・確定申告と同様に、社会保障制度も国際間の調整が必要な重要分野です。
詳しい制度の概要は厚生労働省の社会保障協定ページで確認できます。
日本が社会保障協定を締結している国の一覧【2024年最新】
2024年4月時点で、日本は23カ国と社会保障協定を締結しています。ただし、すべての国が同じ内容ではなく、「二重加入防止+期間通算」と「二重加入防止のみ」の2種類があります。
| 国名 | 発効年 | 二重加入防止 | 期間通算 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| ドイツ | 2000年 | ✅ | ✅ | 最初の協定国 |
| アメリカ | 2005年 | ✅ | ✅ | 日米間の移動が多い |
| フランス | 2007年 | ✅ | ✅ | EU主要国 |
| ベルギー | 2007年 | ✅ | ✅ | - |
| カナダ | 2008年 | ✅ | ✅ | ケベック州は別協定 |
| オーストラリア | 2009年 | ✅ | ✅ | - |
| オランダ | 2009年 | ✅ | ✅ | - |
| チェコ | 2009年 | ✅ | ✅ | - |
| スペイン | 2010年 | ✅ | ✅ | - |
| アイルランド | 2010年 | ✅ | ✅ | - |
| ブラジル | 2012年 | ✅ | ✅ | 在日ブラジル人が多い |
| スイス | 2012年 | ✅ | ✅ | - |
| ハンガリー | 2014年 | ✅ | ✅ | - |
| インド | 2016年 | ✅ | ✅ | IT人材の交流が活発 |
| ルクセンブルク | 2017年 | ✅ | ✅ | - |
| フィリピン | 2018年 | ✅ | ✅ | 技能実習生も対象 |
| スロバキア | 2019年 | ✅ | ✅ | - |
| フィンランド | 2022年 | ✅ | ✅ | 比較的新しい |
| スウェーデン | 2022年 | ✅ | ✅ | 比較的新しい |
| イタリア | 2024年 | ✅ | ❌ | 二重加入防止のみ |
| イギリス | 2001年 | ✅ | ❌ | 二重加入防止のみ |
| 韓国 | 2005年 | ✅ | ❌ | 二重加入防止のみ |
| 中国 | 2019年 | ✅ | ❌ | 二重加入防止のみ |
注意: イギリス・韓国・中国・イタリアの4カ国は「保険料の二重加入防止」のみで、年金加入期間の通算はできません。これは重要な違いですので、自分の母国がどちらのタイプかを必ず確認してください。
最新の協定状況は厚生労働省の各国との社会保障協定ページで確認できます。
社会保障協定の適用条件と対象者
社会保障協定の適用を受けるには、いくつかの条件を満たす必要があります。
派遣期間の要件
協定相手国へ5年以内の派遣が見込まれる場合、派遣元国の社会保障制度にのみ加入し、派遣先国の加入が免除されます。5年を超える場合は、原則として派遣先国の制度に加入する必要があります。
対象となるケース
- 企業の海外派遣社員:日本の会社から協定相手国に一時的に派遣される場合
- 自営業者:協定相手国で一時的に事業を行う場合
- 外国企業から日本への派遣:協定相手国の企業から日本に派遣される外国人
対象外のケース
重要: 日本国内で直接雇用された外国人は、社会保障協定の対象外です。日本で現地採用された場合は、通常通り日本の健康保険や年金制度に加入する必要があります。
適用証明書の申請方法と手続きの流れ
社会保障協定の適用を受けるためには、「適用証明書」の取得が必要です。以下が具体的な手続きの流れです。
日本から相手国へ派遣される場合
- 事業主が申請書を提出 → 管轄の年金事務所に「適用証明書交付申請書」を提出
- 審査・交付 → 日本年金機構が審査し、適用証明書を交付
- 相手国で提示 → 派遣先国の社会保険担当機関に適用証明書を提示し、相手国の社会保険加入を免除
相手国から日本へ派遣される場合
- 母国で適用証明書を取得 → 派遣元国の年金機関(例:アメリカならSSA)で適用証明書を発行してもらう
- 日本で提示 → 日本の年金事務所や勤務先に適用証明書を提示
- 日本の社会保険加入免除 → 適用証明書により、日本の厚生年金・健康保険の加入が免除
申請時の注意点
- 早めの申請が重要:適用証明書の発行には数週間〜数ヶ月かかることがあります。赴任が決まったらすぐに手続きを開始しましょう
- 5年超の延長:当初5年以内の予定が延長になった場合、相手国との協議が必要になる場合があります
- 複数国への派遣:それぞれの国との協定に基づいて個別に手続きが必要です
詳しい申請手続きについては外国人雇用・就労ビザステーションも参考になります。
年金加入期間の通算制度の活用方法
年金加入期間の通算は、社会保障協定の中でも特に重要な仕組みです。
通算の仕組み
日本の年金受給には原則として10年以上の加入期間が必要です。社会保障協定の通算制度を利用すると、相手国での加入期間も合算して10年を満たすことができます。
例: 日本で7年、ドイツで5年働いた場合
- 通算なし → 日本の年金受給資格なし(10年未満)
- 通算あり → 合計12年で日本の年金受給資格あり
ただし、受給額は日本での加入期間(7年分)に基づいて計算されます。ドイツの5年分はドイツの年金制度から支給されます。
通算できない国に注意
先述の通り、イギリス・韓国・中国・イタリアの4カ国は通算の対象外です。これらの国出身の方は、日本での年金加入期間だけで受給資格を判断されます。
年金の請求方法
通算制度を利用して年金を請求する場合は、各国の年金機関に対してそれぞれ申請します。アメリカのSSA(社会保障庁)など、各国の機関で手続き方法が案内されています。
脱退一時金と社会保障協定の関係【重要な注意点】
日本を離れる外国人が利用できる「脱退一時金」制度がありますが、社会保障協定との関係で重大な注意点があります。
脱退一時金とは
日本の年金制度に6ヶ月以上加入した外国人が帰国後、保険料の一部を一時金として受け取れる制度です。日本を出国後2年以内に請求する必要があります。
社会保障協定との重要な関係
脱退一時金を受け取ると、その期間は社会保障協定による通算の対象外になります。
これは非常に重要な判断です。例えば、日本で8年働いた後に帰国する場合:
| 選択肢 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 脱退一時金を受け取る | すぐにまとまった金額を受け取れる | 8年分の加入期間が通算対象外になる |
| 脱退一時金を受け取らない | 8年分を将来の年金受給に通算できる | 当面のお金は入らない |
将来再び日本で働く可能性がある場合や、母国での年金受給に日本の加入期間が必要な場合は、脱退一時金の請求を慎重に検討してください。日本の銀行口座・金融サービスの管理と合わせて、帰国前に総合的な資金計画を立てることをおすすめします。
社会保障協定がない国の外国人はどうすればいい?
日本と社会保障協定を締結していない国(ベトナム、タイ、インドネシアなど東南アジアの多くの国を含む)の出身者は、以下の対応が必要です。
日本の社会保険に加入する
協定がない場合、日本で雇用されると日本の社会保険(厚生年金・健康保険)に加入する義務があります。母国の制度と二重加入になる可能性がありますが、免除の仕組みはありません。
脱退一時金を活用する
帰国時には脱退一時金を請求して、支払った保険料の一部を取り戻すことができます。協定による通算がないため、多くの場合は脱退一時金の請求が現実的な選択肢です。
将来の協定拡大に期待
日本政府は社会保障協定の対象国を拡大する方針です。ベトナムやタイなどとの協定交渉も進められており、将来的には対象国が増える見込みです。
日本でのフリーランス・リモートワークを行う場合も、社会保険の加入状況を確認することが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1: 社会保障協定の適用を受けるのに国籍は関係ありますか?
いいえ、社会保障協定は国籍ではなく「どの国の制度に加入しているか」で判断されます。例えば、日本で厚生年金に加入している日本人が協定相手国に派遣される場合も適用されます。
Q2: 転職して別の国に行く場合はどうなりますか?
各国との協定は個別に適用されます。A国からB国に転勤する場合、それぞれの国との協定に基づいて手続きが必要です。
Q3: 家族も社会保障協定の対象ですか?
被扶養者の扱いは協定ごとに異なります。多くの場合、派遣元国の制度に加入している方の被扶養者は同様に免除の対象となりますが、詳細は各協定の規定を確認してください。
Q4: 協定相手国で現地採用された場合は?
現地採用の場合は社会保障協定の対象外です。現地の社会保障制度に加入する必要があります。
まとめ:社会保障協定を活用して賢く年金・保険を管理しよう
社会保障協定は、日本で働く外国人にとって非常に重要な制度です。ポイントをまとめると:
- 日本は23カ国と社会保障協定を締結(2024年4月時点)
- 保険料の二重負担防止と年金加入期間の通算が主な目的
- 適用を受けるには適用証明書の取得が必要
- 5年以内の派遣が基本条件
- 脱退一時金と通算の関係は慎重に検討が必要
- イギリス・韓国・中国・イタリアは二重加入防止のみ(通算なし)
自分の母国が協定対象国かどうかを確認し、適切な手続きを行うことで、将来の年金受給権を守りましょう。不明点がある場合は、最寄りの年金事務所に相談することをおすすめします。
日本のビザ・在留資格や永住権・帰化申請とも密接に関わる制度ですので、在留計画と合わせて社会保障の管理を行いましょう。
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